東京地方裁判所 昭和61年(ワ)2816号 判決
一 請求の原因2及び3の事実は当事者間に争いがなく、右争いのない請求の原因3の事実と成立に争いのない甲第一号証及び第六号証によれば、本件考案の構成要件は、次のとおりであると認められる。
(1) 対向する左右の側壁部材と、
(2) この対向する左右両側壁部材の両端上部間に水平耐力梁を設けて一体に成形し、
(3) 該左右両側壁部材間の下部を全面開放形状とし、
(4) 該下部の全面開放部を水路勾配に合わせたコンクリート打設面とすることを特徴とした
(5) 勾配自在形プレキヤストコンクリート側溝。
二 被告は、本件考案の出願手続には違法があるから、本件実用新案権は、原告主張のような内容の権利としては主張することができないと主張するので、その点について判断する。
1 出願手続に関する被告の主張1(一)の事実は当事者間に争いがない。
2 被告は、上部にのみ耐力梁を設けることとした分割出願の発明は、当初出願の一部として、その明細書及び図面に包含されていたものではないから、分割出願は、その要件を欠くと主張する。しかしながら、当初出願明細書の発明の詳細な説明の項に、「また、本発明は上記のように左右側壁(1)(1´)の両端の上部と下部に夫々水平耐力梁(2)(2)、(3)(3)を設けているが、一般には下部の水平耐力梁(3)(3)は上部の水平耐力梁(2)(2)よりも断面積を小さく構成するもので、また高さの小さい小断面側溝の如きにあつては、下部耐力梁(3)(3)を設けないか、または設けておいて現場で取除くようにしてもよい」(当初出願明細書五頁六行ないし一四行)と記載されていることは、当事者間に争いがないところ、成立に争いのない乙第一号証によれば、当初出願明細書記載の勾配自在形プレキヤストコンクリート側溝は、これを現場に搬入した後、現場において底部にコンクリートを打設し側溝底を構成させるものであつて、施工後は、底面全体が耐力梁の役割を果たすようになることが認められ、右認定の事実によると、下部耐力梁の目的は、主として製造後現場に搬入設置するまでの間において側壁を支持することにあるものと認められるから、製造後現場に搬入設置するまでの間、下部耐力梁がなくとも破壊するおそれがないような側溝については、下部耐力梁を設ける必要がないことになる。前記当初出願明細書の記載は、そのことをいつているのであつて、高さの小さい小断面側溝のように、下部耐力梁がなくとも製造後現場に搬入設置するまでの間に破壊するおそれがないようなものには、下部耐力梁を設ける必要はないとしているのである。したがつて、当初出願明細書には、上部耐力梁を設けるのみで下部耐力梁のない発明も包含されていることは明らかであるから、被告の右主張は、採用することができない。
3 次に、被告は、変更出願において、左右側壁部間下部を全面開放底部とするとの構成をとつたことは、要旨変更に当たると主張する。しかしながら、前掲乙第一号証によれば、当初出願明細書には、側溝下部に下部耐力梁以外の構造物を設ける構成は記載されていないこと、そして、当初出願の特許請求の範囲には、「下部の水平耐力梁間の開放底部によりコンクリートを水路勾配に合わせて打設するようにした」と記載されていることが認められる。右認定の事実によれば、当初出願においては、側溝底部には下部耐力梁以外には何も設けないことが積極的に開示されているというべきである。したがつて、当初出願において、上部耐力梁のみとして下部耐力梁を設けない場合には、底部が全面開放部になることは明らかである。また、成立に争いのない乙第二号証によれば、分割出願の特許請求の範囲には、「全面開放部」との用語は用いていないものの、「左右側壁間下部を開放底部となし」と、発明の詳細な説明の項には、「左右側壁(1)(1´)間の下部には、現場コンクリート打設により底部を得るための開口部(6)を側壁長さ方向全長にわたり形成し、いわゆる開放底部となしたものである。」と記載され、添付図面第3図には底部に全く構造物を設けていない構成が示されていることが認められるのであつて、右認定の事実によれば、分割出願において、その底部を全面開放部とする構成が開示されていることは明らかであるといわなければならない。したがつて、分割出願が当初出願明細書に記載のない事項を付加したことにはならないし、変更出願明細書において「全面」という言葉が加わつたからといつて、分割出願にない新たな構成を加えたことにもならないのであるから、被告の右主張は、採用の限りでない。
4 また、被告は、出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達後になされた本件補正は、実用新案登録請求の範囲を拡張しており、実用新案法一三条において準用する特許法六四条の規定に違反すると主張するので、この点について検討する。
成立に争いのない甲第二号証によれば、原告は、昭和六〇年四月二二日、変更出願について、明細書全文及び図面中第10図を補正したことが認められる。ところで、前掲甲第一号証によれば、変更出願に係る考案は、工事現場においてコンクリートを打設して溝底部を形成する側溝構築工事に使用する部材に関するものであること及び右考案に係る部材の両端部の形状について、変更出願明細書の考案の詳細な説明の項には、「その基本的特徴とするところは、左右側壁部の両端上部間に水平耐力梁部を一体形成し、左右側壁部間下部を全面開放底部となし、現場にて前記全面開放底部にコンクリートを水路勾配に合せて打設することにより底部打設コンクリートを含めた両端部が断面箱形に構成されるようにしたことにある。」(本件公告公報二頁三欄一〇行ないし一六行)、「本考案による道路側溝(これをイと仮称する)は上記のような構成から、左右側壁部1、1´と水平耐力梁部2、2により全体が<省略>状を呈し、かつ長手方向両端部及び上下面が開放され且つ下面が全面開放された形態となるわけである。」(同二頁三欄三五行ないし三九行)、「本考案の側溝イにおいては、側壁部1´に加わる側圧Pの分布状態は第10図のようになり、このときに左右側壁部1、1´間の上部に一体に水平耐力梁2、2が形成され、また全面開放底部6に現場打ちコンクリート10が設けられて箱状断面となつているので、前記した側圧Pに対し壁体上部と下部において、前記水平耐力梁部2、2及び現場打コンクリート版が的確に反力P´を受持つことになり、そのため壁体に作用する最大モーメントは、P×a×b÷Hと従来の側溝に比し非常に小さくなる。」(同二頁四欄四四行ないし三頁五欄一〇行)との各記載があることが認められる。右認定の事実によれば、変更出願における「底部打設コンクリートを含めた両端部が断面箱形に構成される」という構成は、変更出願に係る考案の部材を用いて工事をした場合、両端部が上部の水平耐力梁と左右の側壁部と底部に打設されたコンクリートとで囲まれることになるため、断面が箱形に構成されることになるとの現場での施工状況を述べているものと理解することができ、また、外からの側圧に対する関係で断面が箱形に構成されているため有利になつているというのであるから、「断面箱形」とは、施工後の断面の外周面が矩形となつていることを意味するものと解される。
そして、補正された登録請求の範囲の構成においても、両端上部間の水平耐力梁と左右の両側壁とがあり、下部の全面開放部を水路勾配に合わせたコンクリート打設面とするものであることは、補正前の構成と変化はなく、また、前掲甲第六号証によれば、本件補正においては、考案の詳細な説明の項も全面的に補正されており、右補正後の本件明細書の考案の詳細な説明の項には、両端部の形状に関して、「その基本的特徴とするところは、対向する側壁材と、この対向する左右両側壁部材の両端上部間に水平耐力梁部を設けて一体に成形し、該左右両側壁部材間の下部を全面開放形状とし、該下部の全面開放部を水路勾配に合せたコンクリート打設面とするようにしたことにある。」(本件補正公報訂五頁四行ないし七行)、「本考案による道路側溝(これをイと仮称する)は上記のような構成から、左右側壁部1、1´と水平耐力梁部2、2により両端面全体が<省略>状を呈し、下面が全面開放された形態となる。」(同訂五頁一八行ないし一九行)、「これに対して本考案の側溝は、下部が全面開放されており、この全面開放底部に現場にてコンクリートを打設するため従来の底部の一部を開口した側溝のように両端の底板のコンクリート厚みを考慮することなく水路底を自在に得ることが出来、その勾配を得るためにはわずかな厚さのコンクリートで断面が箱形となり、その打設コンクリートが側溝に作用する側圧に対して、有効に働くものであつて」(同訂七頁一九行ないし二三行)との各記載があることが認められる。右認定の事実によれば、補正された登録請求の範囲の構成においても、下部の全面開放部にコンクリートを打設すれば、両端部は、両端上部間の水平耐力梁と左右の両側壁と下部のコンクリート打設面とによつて囲まれ、断面の外周面は矩形となつて、断面箱形に構成されることになるのであり、変更出願の登録請求の範囲と内容的には何ら異なるところはなく、本件補正によつて、登録請求の範囲が拡張されたものとは認められず、かえつて、本件補正は、「現場にて前記全面開放底部にコンクリートを水路勾配に合せて打設することにより、底部打設コンクリートを含めた両端部が断面箱形に構成される」との記載が、側溝の使用方法を登録請求の範囲に記載したもののようにも見え、ひいては、考案であるのに方法について記載しているのではないかとの誤解が生ずるおそれもあるため、明瞭でない記載の釈明として、本件明細書記載のとおり補正したものと理解される。
以上のとおりであるから、被告の右主張も、採用するに由ないものといわざるをえない。
三 被告が被告製品を販売していることは、当事者間に争いがない。なお、被告は、被告製品は、別紙目録の構造の説明二行目の「の間にある」は「にある」として特定すべきであると主張する。しかし、別紙目録のその余の記載が被告製品の構造を表していることは、当事者間に争いがないところ、被告製品の甲部4a4bが側壁1a1bの間の部分をさすことは目録の符号の説明に記載されているところであり、また、目録添付の図面一、二からも、甲部は側壁の上部の両端部の間に位置することは明らかであるから、被告製品は、別紙目録記載のとおり特定するに支障はないものというべきである。
四 そこで、本件考案と被告製品とを対比することとするが、被告は、本件実用新案登録は無効であるから、その権利範囲は本件明細書に記載された実施例に限局されるべきであると主張するので、まず、この点について判断する。
1 前記本件考案の登録請求の範囲の記載並びに前掲甲第一号証及び第六号証を総合すると、(1)本件考案は、勾配自在形プレキヤストコンクリート側溝に関するものであること、(2)従来のプレキヤストコンクリート側溝は、両側壁及び底壁が一体形成された断面U形状の三面舗装タイプであり、水路底勾配を自由に得ることが困難であり、また、道路上の自動車の荷重による側圧に抗するためには、側溝が深くなるほど側壁の付根及び底壁の厚さを厚肉に構成しなければならないという欠点があつたこと、(3)本件考案は、右欠点を解消し、道路勾配と関係なく側溝底部勾配を簡便かつ自由に施工することができ、しかも、このような側溝において軽量かつ経済的であるとともに、施工後は大きな強度を得ることができるプレキヤストコンクリート側溝を提供することを目的とし、登録請求の範囲のとおりの構成を採用し、これにより、所期の目的を達成したものであること、(4)実施例に即して説明すると、本件考案は、対向する左右の側壁部1、1´(番号は本件公告公報及び本件補正公報に記載のものを示す。本件考案につき以下同じ。)の長さ方向両端部に、左右側壁部1、1´間を連結する水平耐力梁2、2を一体形成し、左右側壁部1、1´間の下部には、現場コンクリート打設により底部を得るための側壁部長手方向全長にわたる全面開放底部6を形成したものであり、そして、前記水平耐力梁部2、2は、施工前においては、両側壁部1、1´を連結する唯一の連結部を構成するとともに、施工後にあつては、側壁部1、1´に加わる側圧に抗するための耐力梁として構成したものであつて、これにより、現場において全面開放底部6に現場打コンクリート10を打設することによつて無段階的に水路底勾配をとることができ、右コンクリート打設は、水平耐力梁2、2間の開口部4を利用することにより容易に行うことができ、また、水平耐力梁2、2が側圧を支持し、底部打設コンクリートによつて補強されるため、断面構造的に強度を極めて合理的なものとすることができ、更に、従来のU形道路側溝に比べ、側壁の厚さを薄くすることができ、軽量かつ経済的であるとともに、施工後は大きな強度を得ることができるという作用効果を奏するものであることが認められる。
2 被告は、本件考案は、プレキヤストコンクリートの使用方法又は側溝の構築方法についてのものであると主張する。しかしながら、右に認定したとおり、本件考案は、対向する左右の側壁部材と、この対向する左右両側壁部材の両端上部間に水平耐力梁を設けて一体に成形し、該左右両側壁部材間の下部を全面開放形状とした勾配自在形プレキヤストコンクリート側溝に係るものであり、登録請求の範囲に「該下部の全面開放部を水路勾配に合せたコンクリート打設面とすることを特徴とした」と記載されているのは、前記のように、プレキヤストコンクリート側溝の下部を全面開放部とする構造としたのは、右全面開放部にコンクリートを打設し、水路勾配に合わせた水路底を形成することができるようにするためであることを説明しているものと解されるのであつて、右記載から本件考案がプレキヤストコンクリートの使用方法又は側溝の構築方法についてのものであるとすることはできず、他に本件明細書には本件考案が方法についてのものであることをうかがわせるような記載もない。したがつて、被告の右主張は、採用の限りでない。
3 次に、被告は、本件考案は、その出願前である昭和四八年六月一八日に日本国内において頒布された刊行物である実開昭四八―四六四五八号公開実用新案公報(乙第三号証)及び同年七月二〇日に頒布された実開昭四八―五六八五二号公開実用新案公報(乙第四号証)に記載された各考案と同一であると主張している。しかし、原本の存在及び成立に争いのない乙第三号証及び第四号証によれば、右の各公開実用新案公報に記載されているのは、側溝用のU字形ブロツクであるが、いずれも、左右両側壁部材の両端上部間に水平耐力梁を設けて一体に形成したとの構成及び左右両側壁部材の下部が全面開放部となつているとの構成を有するものではなく、本件考案と同一であるとは認められないから、被告の右主張は、採用することができない。
4 以上のとおり、被告の主張する無効事由はいずれも認められないから、本件考案の権利範囲は本件明細書に記載された実施例に限局されるべきであるとの被告の主張は、その前提を欠き、理由がないものというべきである。
五 そこで、被告製品が本件考案の技術的範囲に属するか否かについて判断する。
1 被告製品を示す別紙目録の構造の説明及び図面によれば、被告製品は、対向する左右の側壁部材を有していること及び左右側壁部材間の底部は全面開放部となつていることが認められるから、被告製品が本件考案の構成要件(1)及び(3)を充足することは明らかである。また、成立に争いのない甲第四号証の四及び六によれば、被告製品の底部の全面開放部は水路勾配に合わせたコンクリート打設面となつていることが認められるから、被告製品は構成要件(4)も充足する。
2 別紙目録の構造の説明によれば、被告製品においては、左右の側壁1a1bと、その上部両端部の間にある上面が水平で下面が円弧をなし、ボルト孔3が設けられた甲部4a4bとが一体に形成されていることが認められるので、右被告製品の甲部が、構成要件(2)の水平耐力梁に該当するか否かについて検討する。
前掲甲第六号証によれば、本件明細書には、水平耐力梁について、「水平耐力梁部2、2は施工前においては両側壁部1、1´を連結する唯一の連結部を構成するとともに、施工後にあつては、側壁部1、1´に加わる側圧に抗するための耐力梁であり、自動車の輪荷重が載荷した場合の耐力梁として構成する。」(本件補正公報訂五頁一一行ないし一三行)と記載されていることが認められるから、本件考案における水平耐力梁は、右のようなものでなければならない。他方、別紙目録の構造の説明及び図面によれば、被告製品の甲部も、施工前においては、両側壁部を連結する唯一の連結部を構成するものであることが認められる。また、前掲甲第六号証によれば、側溝は、道路上を走行する自動車荷重により側圧を受けるが、側圧は側壁体上方に強く作用し、従来の側溝はU形三面舗装の形状で上部が開いているため、側壁は片持梁としてその側圧を受け、側壁付根と底壁部分に最も大きなモーメントが作用することが認められるところ、被告製品の甲部は、両端部において左右側壁の上部を連結し一体に構成されているのであるから、施工後は、左右側壁上部を連結している右甲部が、側壁に加わる側圧に抗する耐力梁としての機能を果たすことになるのは当然であつて、被告製品の甲部が耐力梁としての機能を有することは明らかであり、そのことは、被告作成の新門型設計資料と題する被告製品のパンフレツトの一部である前掲甲第四号証の六において、曲げモーメントの計算に当たり甲部を梁とし全体を門型ラーメンとして強度計算を行つていることからも明らかであるといわなければならない。もつとも、被告製品の甲部は、上面は水平であるが、下面は円弧をなしている。しかし、前掲甲第六号証によれば、本件明細書の考案の詳細な説明の項には、水平耐力梁について、「上部の水平耐力梁部2、2により形成された上面の開口部4に蓋版7を係止するための段部5、5を形成し」(本件補正公報訂五頁一三行ないし一四行)、「施工にあたつてはかかる状態で現場に搬入し、この本考案道路側溝イを、天端部8が道路天端部9に合致するように配列し」(同訂五頁一九行ないし二一行)との記載が存在することが認められ、右各記載によれば、本件考案の耐力梁が水平であるのは、耐力梁部により形成される上面の開口部に蓋板をはめるようにするためと、側溝の天端を道路の天端に合わせるためであると理解されるから、水平であることを要するのは耐力梁部の上面である。そして、前掲甲第六号証によれば、本件明細書には、本件考案は耐力梁部の下面の形状を特に限定していると解すべき記載も存しないことが認められるから、施工前においては両側壁部の連結部としての機能を有するとともに、施工後にあつては側圧に抗する耐力梁としての機能を有しており、その上面が水平であれば、下面が円弧をなしていても、本件考案にいう「水平耐力梁」に該当するものというべきである。以上のとおり、被告製品の甲部は本件考案にいう水平耐力梁に該当するから、被告製品は、構成要件(2)を充足する。この点に関して、被告は、本件考案は縦横比一対一・五ないし一・八、幅と高さはほぼ同一といつた標準的直方体のブロツクを前提としており、被告製品のように縦横比が一対二・六ないし四・二と比のバランスが本件考案の予想する技術的前提と全く異なる場合にまで本件考案の技術的範囲を押し及ぼす余地はないと主張するが、前掲甲第六号証によれば、本件考案に係る側溝用ブロツクの形状について、被告主張のようなものに限定する旨の記載は本件明細書にはないことが認められ、他に右のように限定して解釈すべき根拠も見当たらず、また、被告製品の縦横比がどのようなものであれ、被告製品における甲部が、本件考案の水平耐力梁と同様、側圧に抗する耐力梁としての機能を有していることは前判示のとおりであるから、被告の右主張は、採用の限りでない。また、被告は、被告製品の甲部の下面はアーチ形をしているため、側方からの力に対しては、架設部を上部に押し上げる破壊的な方向に作用すると主張するが、右主張事実を認めるに足りる証拠はないばかりか、前判示のとおり、被告自身、被告製品の強度計算において、甲部を梁とし全体を門型ラーメンとして計算しているのであつて、甲部が耐力梁としての機能を有することは明らかであるから、被告の右主張も、採用することができない。更に、被告は、本件考案における水平耐力梁は、その構成自体ブロツクの軽量化、コンクリートの節約に適合する構成である必要があるところ、被告製品甲部は、必要以上に分厚く構成され、多量のコンクリートが使用されていると主張する。しかし、前判示のとおり、本件考案は、道路勾配と関係なく側溝底部勾配を簡便かつ自由に施工することができ、しかも、このような側溝において軽量かつ経済的であるとともに施工後は大きな強度を得ることができるプレキヤストコンクリート側溝を提供することを目的とするものであり、その目的を達成するため、登録請求の範囲のとおりの構成を採用し、その結果、側壁上部両端間に一体に成形された水平耐力梁が側圧を支持し、また、底部打設コンクリートによつて補強されるため、断面構造的に強度を極めて合理的なものとすることができ、従来の上部に梁のないU形道路側溝に比べ、側壁の厚さを薄くすることができ、軽量かつ経済的であるとともに、施工後は大きな強度を得ることができるという作用効果を奏するものであつて、梁自体の構造が直接軽量化の理由となつているものではないのである。また、前掲甲第六号証によれば、本件明細書には、水平耐力梁の構成として、必要最小限度のコンクリート使用量のものに限定し、それ以上にコンクリートを使用しているものは含まないとする趣旨の記載は存在しないことが認められる。これらの事実を総合すると、本件考案の水平耐力梁としては、左右側壁を連結し、側壁にかかる側圧を支持することによつて、強度を得るために必要な側壁の厚さを薄くできるようなものであれば十分であつて、水平耐力梁自体が必要最小限度のコンクリートによつて構成されていなければならないとの限定は無いものというべきである。したがつて、被告の右主張も、採用することができない。
3 次に、本件考案の構成要件(5)のプレキヤストコンクリート側溝の意義について、被告は、構築物としての側溝を意味すると主張するので、この点について審案する。
本件明細書における「側溝」なる用語の用い方をみると、側溝用のコンクリートブロツク製品を意味している場合と、構築物としての側溝そのものを意味している場合とがある。すなわち、前掲甲第六号証によれば、本件明細書の考案の詳細な説明の項には、「従来のU字側溝では、工場で作られたものを現場に運び、ここで連続的に配設して側溝を形成するというものであるが、このように現場に運ばれる側溝は、その運搬、配設および経済的な面からなるべく軽量であることが望まれる。」(本件補正公報訂三頁三一行ないし三三行)と記載されていることが認められ、右記載のうち、「側溝を形成する」の「側溝」が構築物としての側溝を意味し、また、「現場に運ばれる側溝」の「側溝」が側溝用コンクリートブロツクを意味することは明らかである。また、その他の箇所の記載をみても、本件明細書においては、「側溝」の語は、構築物としての側溝の意味で用いられる場合もあると同時に側溝用のコンクリートブロツクの意味で用いられる場合もあるのであつて、前後の文脈から、どちらの意味で用いられているのかを判断する必要がある。そこで、構成要件(5)の「勾配自在形プレキヤストコンクリート側溝」の「側溝」がどちらの意味で用いられているのかを検討するに、本件明細書の考案の詳細な説明の項には、本件考案に係る側溝についての記載として次のようなものがある。「本考案は勾配自在形プレキヤストコンクリート側溝の考案に係り、道路勾配と関係なく側溝底部勾配を簡便かつ自由に施工することができ、しかもこのような側溝において軽量且つ経済的であるとともに施工後は大きな強度を得ることができるプレキヤストコンクリート道路側溝を提供せんとするものである。(本件補正公報訂三頁五行ないし八行)、「本考案は上記したような従来の道路側溝の不利、欠点を除去し、平坦地においても排水勾配を無段階的に自在かつ簡便に形成することができ、しかもこのような側溝において軽量且つ経済的で、施工後は優れた強度を得ることができるプレキヤストコンクリート道路側溝を開発したものであり」(同訂五頁二行ないし四行)、「本考案による道路側溝(これをイと仮称する)は上記のような構成から、左右側壁部1、1´と水平耐力梁部2、2により両端面全体が<省略>状を呈し、下面が全面開放された形態となる。しかして施工にあたつてはかかる状態で現場に搬入し、この本考案道路側溝イを、天端部8が道路天端部9に合致するように配列し、次いで下部の全面開放底部6に現場にてコンクリートを打設し、この現場打コンクリート10によつて側溝底を構成させるものである。」(同訂五頁一八行ないし二二行)、「本考案の側溝は両端上部に水平耐力梁部2、2が形成されているが、それら水平耐力梁部2、2間には蓋版7を装着するための開口部4があるので、この開口部4を利用することにより前述したコンクリート打設及び仕上げ作業を容易に行うことができる。」(同訂五頁三一行ないし三三行)、「本考案における側溝イにおいては、前記の如く、深さを深くしても、必要強度を得るための側壁厚が薄くて良く、経済的な側溝を得ることが出来るため、道路巾が大きく有効に使用出来、既設道路に施工する場合も、その掘削巾が小さくてすみ交通阻害を少なくすることが出来る。」(同訂七頁一〇行ないし一二行)、「これに対して本考案の側溝は、下部が全面開放されており、この全面開放底部に現場にてコンクリートを打設するため従来の底部の一部を開口した側溝のように両端の底板のコンクリート厚みを考慮することなく水路底を自在に得ることが出来」(同訂七頁一九行ないし二一行)、「以上の様に本考案の側溝は、従来のU字側溝や底面一部開口型の側溝に比べて施工の点で格段に優れたものであり」(同訂五頁二三行ないし二四行)。以上の各記載によれば、本件考案の構成要件(5)の「側溝」は、これを用いて側溝工事を施工するものであり、その形態は下部が全面開放されている等、側溝用のコンクリートブロツクを意味するものとして用いられていることが明らかである。したがつて、構成要件(5)の「プレキヤストコンクリート側溝」は構築物としての側溝を意味するとの被告の右主張は、採用することができない。
他方、被告製品が側溝用のブロツクであることは、別紙目録の記載から明らかであるから、被告製品は、構成要件(5)も充足する。
4 なお、前掲甲第四号証の四によれば、被告製品は、平坦な道路であつても側溝の排水勾配を底打コンクリートによつて自由にとれること及び合理的な構造であるので軽くて経済的であることが認められるから、被告製品は、本件考案と同様の作用効果を奏するものと認められる。
5 以上のとおり、被告製品は、本件考案の構成要件をすべて充足し、本件考案と同様の作用効果を奏するのであるから、本件考案の技術的範囲に属するものというべきである。被告は、本件考案の各構成要件は、いずれも新規な構成ではなく、したがつて、本件考案は、既存の先行技術を組み合わせたものにすぎず、この先行技術の部分は、公有財産であつて、何人でも利用しうる部分であるから、この部分の同一性をもつて本件考案の権利侵害が認められる余地はないと主張する。しかし、仮に本件考案の構成要件のそれぞれが公知であるとしても、それらを組み合わせた本件考案が直ちに公知であることになるものでないことはいうまでもないところであるうえ、本件考案が出願前公知の考案と同一であるとの被告の主張が認められないことは前判示のとおりであるから、被告製品が本件考案の構成要件のすべてを充足すれば、その組合わせに係る被告製品が本件考案の技術的範囲に属することになるのは当然のことであり、したがつて、被告の右主張は、採用の限りでない。
六 被告は、本件補正は、実用新案法一三条において準用する特許法六四条の規定に違反するから、登録請求の範囲は本件補正前の変更出願明細書に記載されたところによることとなるから、本件考案の構成要件には、「底部打設コンクリートを含めた両端部が断面箱形に構成されること」が含まれるところ、被告製品は、右構成要件を充足しないと主張するので、この点について判断する。
本件補正が特許法六四条の規定に違反するものでないことは、前判示のとおりであるが、仮に、被告主張のように「底部打設コンクリートを含めた両端部が断面箱形に構成されること」が本件考案の構成要件に含まれるものとしても、以下に述べるとおり、被告製品は、右構成要件を充足するものである。すなわち、前判示のとおり、変更出願における「底部打設コンクリートを含めた両端部が断面箱形に構成される」という構成は、変更出願に係る部材を用いて工事をした場合、両端部が上部の水平耐力梁と左右の側壁部と底部に打設されたコンクリートとで囲まれ、断面の外周面が矩形となつて、断面が箱形に構成されることになることを意味するところ、別紙目録の記載によれば、被告製品において底部にコンクリートを打設した場合、その両端部は、上部の甲部と、左右の側壁部と、底部の打設コンクリートとによつて囲まれ、断面の外周面は矩形状となつて、断面箱形となることが認められるから、被告製品は、右構成を備えているものというべきである。なお、被告製品の場合、甲部の下面が円弧をなしているが、「断面箱形」が断面の外周面が矩形となつていることを意味することは前判示のとおりであるから、断面の内部において甲部の下面が円弧状であつても、外周面が矩形であれば、断面箱形というを妨げない。
したがつて、被告の右主張も、採用することができない。
七 そこで、原告の損害の主張について判断する。
1 原告は、被告は、昭和五九年四月一日以降昭和六二年五月三一日までの間に、被告製品を合計一一億八〇〇〇万円販売したと主張し、甲第一四号証には、これに添う記載がある。しかしながら、同号証に記載された被告製品の販売額は、同号証の作成者である株式会社ホクエツ福井営業所長が、福井県内における総需要と株式会社ホクエツの販売額から推定したにすぎないものであることが、その記載自体から明らかであり、右推定の根拠も不明確であつて、同号証によつて原告の右主張事実を認めることは困難であるといわざるをえず、他に原告の右主張事実を認めるに足りる証拠はない。したがつて、被告製品の販売額は、被告の自認する昭和五九年六月二〇日から昭和六一年一二月三一日までの間の合計六億二四三三万三〇〇〇円の限度で是認するほかはない。
そして、実用新案法三〇条において準用する特許法一〇三条の規定により、被告は、右本件実用新案権の侵害行為について過失があつたものと推定される。
2 原告は、被告が右販売によつて得た利益の額が原告の損害の額となると主張する。しかしながら、原告が工業所有権等の管理を主たる業とする会社であることは原告の自認するところであるから、原告は、自ら本件考案を実施していないものと解され、その場合には、実用新案法二九条一項の規定により、侵害者の得た利益の額を実用新案権者の損害の額と推定することはできないものと解するのが相当であるから、原告の右主張は、採用することができない。
3 原告は、予備的に、本件考案の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額として主張するので、本件考案の実施に対し通常受けるべき金銭の額について検討する。
原告作成部分の成立について争いがなく、その余の部分は弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一九号証、成立に争いのない甲第二〇号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件考案に基づくVS側溝の製造販売を許諾する対価として一時金及び販売額の三パーセントの実施料の支払を受けることとしていること、一時金の額は会社の規模や取引関係によつて決まり一定していないこと、許諾先は全国に所在し一〇〇社以上になつていることが認められる。右認定の事実によれば、本件考案の実施に対し通常受けるべき金銭の額は、販売額の三パーセントであると認めるのが相当である。この点に関して、原告は、被告の場合は一時金を支払つておらず、また、係争中であるから、友好的な実施権者の場合の二倍の六パーセントが実施料相当額であると主張している。しかし、前認定のとおり、一時金の額は一定していないにもかかわらず、三パーセントの率は一時金の額と無関係に一定であるというのであるから、一時金を支払つていないからといつて、実施料の率を三パーセントから六パーセントにすべきであるとする理由はなく、また、係争中であるからといつて、その者に対する関係で実施料の率を高くすべき理由もないから、原告の右主張は、採用の限りでない。
そうすると、被告の被告製品の販売額は、前判示のとおり六億二四三三万三〇〇〇円であるから、本件における本件考案の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額は、その三パーセントに当たる一八七二万九九九〇円となる。
八 以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、被告に対し、被告製品の販売の差止め及びその占有する被告製品の廃棄並びに一八七二万九九九〇円及びこれに対する弁済期後である昭和六二年六月一日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるが、その余は理由がないものというべきである(なお、原告は、被告に対し、被告製品の製造の差止めも請求しているが、被告が被告製品を製造していること又は製造するおそれがあることについての主張立証はないから、被告製品の製造の差止請求権は認められない。)。よつて、原告の請求を右の限度で認容し、その余は失当として棄却することとする。
〔編注1〕本件における請求原因は左のとおりである。
1 原告は、ヒユーム管及びセメント製品の製造販売等を業とする北越ヒユーム管株式会社の工業所有権部門を独立させた工業所有権等の管理を主たる業とする会社であり、被告は、コンクリート二次製品の販売等を業とする会社である。
2 原告は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有している。
登録番号 第一六一七九八六号
考案の名称 勾配自在形プレキヤストコンクリート側溝
出願日 昭和五〇年四月一五日
公告日 昭和五六年一一月三〇日
登録日 昭和六〇年一一月二九日
3 本件考案の実用新案登録出願の願書に添付した明細書(実用新案法一三条において準用する特許法六四条の規定による補正後のもの。以下「本件明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲(以下「登録請求の範囲」と略称する。)の記載は、次のとおりである。
「対向する左右の側壁部材と、この対向する左右両側壁部材の両端上部間に水平耐力梁を設けて一体に成形し、該左右両側壁部材間の下部を全面開放形状とし、該下部の全面開放部を水路勾配に合せたコンクリート打設面とすることを特徴とした勾配自在形プレキヤストコンクリート側溝。」
4(一) 本件考案の構成要件は、次のとおりである。
勾配自在形プレキヤストコンクリート側溝であつて、次の構成からなるもの。
イ 対向する左右の側壁部材を設けること
ロ この対向する左右両側壁部材の両端上部間に水平耐力梁を設けて一体に成形すること
ハ 該左右両側壁部材間の下部を全面開放形状とすること
ニ 該下部の全面開放部を水路勾配に合わせたコンクリート打設面とすることを特徴とすること
(二) 本件考案は、勾配自在形プレキヤストコンクリート側溝に関するものであつて、道路勾配と関係なく側溝底部勾配を簡便かつ自由に施工することができ、しかも、このような側溝において軽量かつ経済的であるとともに、施工後は大きな強度を得ることができるプレキヤストコンクリート道路側溝を提供することを目的としたものである。すなわち、本件考案は、全面開放底部に打設した現場打ちコンクリートによつて無段階的に勾配をとることができ、計画勾配と排水勾配とを完全に一致させることができる。また、本件考案は、従来のプレキヤストコンクリート道路側溝と比較して断面構造的に強度を極めて合理的なものとなしえて経済的であり、施工後も大きな強度を有する。
5 被告は、別紙目録記載の側溝用門型ブロツク(以下「被告製品」という。)を販売している。
6(一) 被告製品は、次の構造を備えている。
イ 対向する左右の側壁部材を有している。
ロ この対向する左右側壁部材の上部両端部間に甲部を設けて一体に成形している。
ハ 該左右両側壁部材間の下部を全面開放形状としている。
ニ 該下部の全面開放部を水路勾配に合わせたコンクリート打設面としている。
(二) 以上の構造により、被告製品は、道路勾配と関係なく側溝底部勾配を簡便かつ自由に施工することができ、軽量かつ経済的であつて、施工後は大きな強度を有するという効果を得ている。
7 本件考案の構成要件と被告製品の構造とを対比すると、被告製品の構造イ、ハ、ニは、本件考案の構成要件イ、ハ、ニと完全に一致する。被告製品の構造ロの甲部は、施工前においては両側壁部を連結する唯一の連結部であるとともに、施工後においては、側壁部に加わる側圧に抗するための耐力梁である。そして、その上面は水平であり、本件考案の水平耐力梁部に相当する。したがつて、被告製品の構造ロは、本件考案の構成要件ロに該当する。また、被告製品と本件考案とは、その目的効果も同じである。以上のとおり、被告製品は、本件考案の構成要件をすべて充足し、その技術的範囲に属するものである。
(以下省略)
〔編注2〕本件における目録は左のとおりである。
図面及び説明に示される側溝用門型ブロツク
図面の説明
図面一はイ号製品の、図面二はロ号製品の図面で、各図の説明は次のとおりである。
第一図 正面図
第二図 背面図
第三図 平面図
第四図 第三図のX―Xにおける縦断面図
第五図 第一図のY―Yにおける縦断面図
符号の説明
1ab 側壁部材
2 段部
3 ボルト孔
4ab 側壁1abの間の部分(甲部と略称する)
5 ゴム目地
6 開口部
7 全面開放部
構造の説明
上部内側に段部2を有する左右の側壁1a1bと、その上部両端部の間にある上面が水平で下面が円弧をなし、ボルト孔3が設けられた甲部4a4bとが一体に形成され、上面は開口部6が形成され、底部7は全面開放部となつている。
なお、寸法は、添付本体規格記載のとおりであり、寸法欄Aが五〇〇mmのもののうちHが一三八五mm以上のもの及びAが六〇〇mmのもののうちHが一五〇〇mm以上のものがロ号で、それ以外がイ号である。
図面一
<省略>
図面二
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〔編注3〕本件考案の図面は左のとおりである。
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